契りの果てに

category: 御白紫苑  

続いて、2016年の「ブラックタイガー」掲載作品「契りの果てに」。

どうやったら読みやすい作品になるだろう?
→自分の文は長くなりやすいから、短く区切ってみようか
→おお、何か短く区切っていったら童話みたいな感じになった……今回のコンセプトが「劇にするための小説」だし、折角だから童話調でいくか!

そんな感じで、読みやすさに大分主眼を置いた作品となっています。私の作品の中では、一番読みやすいんじゃないだろうか。内容自体も好きなテーマなので、一番お気に入りの作品だったりします。

元々劇になるかもしれなかったかもしれない作品なので、場面を想像しながら読んでいただけると楽しめる……といいなあ……(願望)
 

契りの果てに
                                          御白 紫苑


「……では、続いてのニュースです。住民の声を受け、産業廃棄物処理場が××県に新設されることになりました。産業廃棄物の一時保管を担う××県では以前より処理場の必要性が叫ばれており、この建設によって廃棄物の輸送費の削減や保管期間の短縮に効果があがると期待され――」

 ブツリ。
 少女はしかめっ面でニュースを消して、テレビのリモコンを置きました。ぶすくれた顔のまま、彼女は家を出て歩き出します。
 歩いて十分。家から程近いところにあるその洞窟が、彼女の仕事場です。洞窟は外から見るととても暗く、あまり入ろうとする気は起きません。しかし彼女はためらわず、闇へと足を踏み入れます。中の壁にはかがり火が取り付けてあって、弱弱しくともしっかりと中を照らしてくれる事を、彼女はちゃんと知っているのです。
 薄闇の中を歩きながら、少女は初めてここに来たときのことを思い出していました。
 少女が初めてここに来たのは、彼女がほんの十歳のとき。両親を事故で亡くし、身よりもない彼女は、自分でお金を稼ぐために、小さな子でもできるお仕事がしたいと考えました。
 そこで目をつけたのが、この洞窟でのお仕事です。この洞窟は、ニュースでも伝えられていた、産業廃棄物を一時的に置いておくための場所です。ここでのお仕事というのは、その産業廃棄物を見張るというもの。見張るだけなので、小さく幼い少女にも簡単に出来ます。
 見張りの仕事をしたいと申し出た彼女を、係りの人が洞窟に連れて行ってくれました。この仕事をする人は、洞窟で「契りの儀式」というものをしなければならないのです。

 暗闇に怯えながら初めて入った洞窟で彼女はそれを見ました。とてもとても美しいものでした。
 体中に生えた赤いうろこが、かがり火に照らされてキラキラと輝いています。低い唸り声とともに見える鋭い牙も、雲のように真っ白でとても綺麗です。それと対になるようにまっ黒な角も、うろこや牙にとてもよく映えています。自分の背丈くらいに太い尻尾が蛇のようにしなるたびに、月にウサギを見つけた時みたいなゾクゾクとした感覚が、背中を走ります。
 何よりも、この廃棄物たちは、街中にいる、まだ廃棄されていないものと違って、とても傷ついています。街中にあるのは傷がなくてうろこが光を全部反射してしまうので、とても目にまぶしいのです。しかしここに捨てられたものは程よく傷が入っていて、まっすぐ見てもまぶしくありません。思う存分眺められます。そんな美しいものたちが、動くものも動かないものも、ここにはいっぱいあるのです。
 見とれていた少女に、声がかけられました。ここにつれてきてくれたお兄さんとも違う、美しく澄んだ声でした。

「お前は私たちの事を、哀れんだりはしないだろうね」

 少女が声のほうを見上げると、捨てられた中の一つが、少女にその顔を向けていました。少女は答えます。
「哀れむ? どうして哀れむの?」
 首をかしげる少女に、それは――竜は――口をゆがめます。笑ったようです。
「合格だ。私たちは哀れに思われる事を好まない。私たちのプライドを鎮める人柱として……生贄となってもらうよ」
 そう言うとその竜は、少女に顔を寄せました。そうしてがばりと口をあけ、鋭い牙の一本を少女の腕につきたてたのです。火に焼かれたような痛みを感じて、少女は悲鳴を上げそうになりました。けれどもそれはまるで注射みたいに一瞬で終わったので、声はあげずにすみました。
 牙に貫かれたように見えた腕に、穴はありません。ただ、不思議な文様が浮かび上がっていました。
「これで契りは終わりだ。『私たちを哀れに思わないこと』『私たちよりも立場が下であるように振舞うこと』この二つをしっかり守ってくれ。破るようなら、お前はこの仕事をやめなければならないからね。それじゃあしっかり私たちのことを見張っていてくれよ、お嬢さん」

 それ以来、少女は毎日洞窟に来て、廃棄物たちを見張っています。時々まだ動ける廃棄物が彼女に偉そうな態度をとりますが、彼女は腹もたてません。契約の事もありますし、何よりその廃棄物がとても綺麗で美しいからです。どれだけ嫌なことを言われても、少女はただ相手に見とれるばかりでした。
 ただ、時が経つにつれ、少女に変化が起きました。大きくなって、いろんなことが分かるようになった少女は、廃棄物たちが――竜たちが――自分と同じ生き物だということに、気付いてしまったのです。食材として、労働力として、色んな道具の材料として、竜は使われます。そうして散々使われ搾り取られ、これ以上役に立たないとされた竜は「産業廃棄物」としてこの洞窟に連れてこられます。この時点で生きている竜も、死んでいる竜も、処理場に運ばれ、まとめて大きなミキサーで粉々にしてしまうのです。
 少女は自分だったらどう思うだろう、と想像してみました。とても悲しくなりました。そして、思ってしまったのです。
「かわいそう」
と。
 少女はついに、竜との約束を破ってしまいました。

 腕の文様を通して、竜はそれを知りました。そうしてやってきた少女に向かって、竜は言いました。
「お前は私たちを哀れんだね。契約違反だ。もう、お前に見張りの仕事はさせたくない」
 竜の言葉に、少女はうなだれます。
「ごめんなさい。……でも、どうしようもなかったの」
「そうかい。だが、違反は違反。契りを解かせてもらうよ」
 竜は澄んだ声でそう言うと、少女に牙を剥きました。以前は腕を貫いた鋭い牙で、今度は少女の頭を、貫きます。
「ああっ……!」
 あの時は我慢できた痛みが、今度は我慢できません。何せ、脳みそを焼かれるような痛みが、ずっと続くのですから。
 あまりの痛みに、少女は気を失い、その場に倒れてしまいました。
 そして少女は目覚めます。起き上がった視線の先に、こっちを見つめる竜がいました。食材に労働力に道具の材料に、竜は何にでも使える便利なものです。傷だらけなところを見ると、廃棄物として捨てられた竜なのでしょう。眩しくなくていいな、綺麗だな。少女はそう思いました。
 澄んだ声で、竜は問いかけます。

「お前は私たちの事を、哀れんだりはしないだろうね」

 少女はきょとんとして答えます。

「哀れむ? どうして哀れむの?」

 竜が口をゆがめました。少女にはそれが、竜が優しく微笑んだのだとわかりました。
 竜の澄んだ声は、弾んでいました。

「なら、契りを結びなおそう。贖罪は済んだのだから」
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2017_03_22

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