神奇心
category: 黒山羊
どうも、黒山羊です
このたび、絶対に許せないものができました
昨夜、すでにアップする作品はできていたにもかかわらず、初めての定期更新が遅れた原因です
ええ、絶対に許しませんとも、昨夜、記事を保存しようとした瞬間に現れた悪魔
実家のPCのフィルターを、絶対に許しません(白目)
さて、愚痴はこれくらいにして、いつもより少し長い(?)ですが、今回もクトゥルフ神話の被害者記録です
今までアップした作品が何も悪くない人がひどい目に合うというライターの人格が疑われかねないものばかりだったので、今回は自業自得な感じの楽しいお話です
主人公(?)がこの後どうなるのかはご想像にお任せしますが、楽しんでいただけたら幸いです
あ、あと今回、ルビという名の( )がすごく多いです。ルビの位置がわかりづらいところには下線が引いてあります
あらかじめご了承ください
このたび、絶対に許せないものができました
昨夜、すでにアップする作品はできていたにもかかわらず、初めての定期更新が遅れた原因です
ええ、絶対に許しませんとも、昨夜、記事を保存しようとした瞬間に現れた悪魔
実家のPCのフィルターを、絶対に許しません(白目)
さて、愚痴はこれくらいにして、いつもより少し長い(?)ですが、今回もクトゥルフ神話の被害者記録です
今までアップした作品が何も悪くない人がひどい目に合うというライターの人格が疑われかねないものばかりだったので、今回は自業自得な感じの楽しいお話です
主人公(?)がこの後どうなるのかはご想像にお任せしますが、楽しんでいただけたら幸いです
あ、あと今回、ルビという名の( )がすごく多いです。ルビの位置がわかりづらいところには下線が引いてあります
あらかじめご了承ください
神奇心
ワイングラスには混沌(カオス)を思わせるマーブルがなみなみと在った。
男がグラスを傾けると、精神病棟(サナトリウム)の壁のような白(ブランク)と、末期患者の肌のような蒼(ペイル)とが、少しでも力を込めれば折れてしまいそうな、か細いステムに支えられ、薄氷(うすらい)のようなボウルで切りとられた小世界の中で、病的に混ざり合い、ドロリと波打つ。
始まりを象徴するかのような白(イノセンス)と死の気配が纏わりつく蒼(ペイル)。
それらが形創る混沌(せかい)の上で、大小さまざまな淀みきった泡(バブル)の群れが、パチリ、パチリと弾けるたびに、地下墳墓(カタコンベ)と生命誕生(バース)の香りが鬩ぎ合うマーブルが、男の鼻腔を蹂躙した。
男は、鼻をひくつかせ、眉根をひそめる。
しかし、その行動は不快から来るものではなかった。嫌悪から来るものでもなかった。
そのマーブルが、生けとし生けるすべてのものが、根源的嫌悪を抱き得るに違いない醜悪さを孕んでいるにもかかわらず、である。
その証拠に、男の口角は吊り上がり、喩えようもない歪みとともにその顔面に張りついている。
これ以上無いと思えるほどの、悪魔的な笑みだった。
生と死が混在し、互いに肯定と否定を繰り返す、究極の矛盾に満ち満ちたそのマーブルが鼻腔を這い、眼底を舐めるたび、男は歪んだ欲望と病的な興奮とともに、価値観(せかい)がひっくり返った、男にとって終末(カタストロフ)とも創造(クリエーション)とも言えるあの一瞬を思い出すのだ。
その日、男は豪華客船に乗っていた。目的は船上で開かれる競売(オークション)だった。
ただの競売(オークション)ではない。
社会から疎まれ、爪弾きにされる奇人、変人たちがこぞって集う奇奇怪怪な競売(オークション)である。
当然のように非合法であり、競りに出されるのは、奇人(バイヤー)が全く平凡に思えるほどの品々ばかり。
口にするのも憚られる邪悪なカルトにまつわる小像(スタチュー)、世間から完全に隠蔽されたはずの存在するべきでない文書(ノート)、そこにあるだけで人を破滅へと導くと思われるような妖しげな書物(グリモア)……
何不自由なく育ったがゆえに、己の好奇心のみに従って生き、ともすれば好奇心の奴隷のように生きていると思われた男にとっては、ここ以上にその病み切った精神を高ぶらせる場所はほかになかった。
ここは男にとって、まさしく理想郷(ユートピア)にほかならなかった。
そして、この日、男は見たのだ、理想郷の終末(ディストピア)を。見たのだ、理想郷の創造(クリエーション)を。
男は聞いたのだ、世界が壊れる音(カタストロフ)を。聞いたのだ、真の理想郷の誕生(ユートピア)を。
その時、男は会場を出ていた。何も不思議なことではない。ただ単に一服しようと思っただけのことだった。しかし、男にとって、この一服は、まさに運命の一服だった。
会場に戻ろうと扉に手をかけたとき、賢しい男の耳は容易く異常を嗅ぎつけた。
会場内が妙に騒がしかった。ただの騒がしさではない。不安と恐怖がありありと感じ取れる騒がしさだ。それも選りすぐりの奇人たちの集う会場から、である。
男はほんの少しだけ、絶対に中のものに見つからないように、少しだけ扉を押し開けた。
最初に目に入ったのは霧だった。会場の鋭角という鋭角から遍く吹き出す霧。蒼(ペイル)と白(ブランク)、生と死を同時に孕んだ矛盾を体現したかのような濃霧。
そうして、男は見た、いや感じた。五感すべてで。
その濃霧が凝縮し、固まり、顕現した、蒼と白の膿を滴らせる、四足の異形の神獣(かみ)を。悪魔(かみ)を。
いかなる重火器をもってしても、いかに不可思議な力をもってしても、その不死の絶対者(かみ)に蹂躙されるしかない、脆弱な、人間(せかい)の、理想郷(せかい)の姿を。
そしてこの時、男の生涯で最も激しく、最も歪み、最も狂った欲望が、その頭をもたげた。
『あの神(ちから)を自らのものにしたい』
この大それた欲望こそが、男にとっての真の理想郷(ユートピア)となったのだった。
そして、今、男の持つワイングラスには混沌(カオス)を思わせる蒼と白(マーブル)がなみなみと在った。
男は一息に小世界(グラス)を傾ける。
そして、今、男の持つ肉と皮の容れもの(ワイングラス)には神(カオス)を思わせる創造(マーブル)がなみなみと在った。
(了)
ワイングラスには混沌(カオス)を思わせるマーブルがなみなみと在った。
男がグラスを傾けると、精神病棟(サナトリウム)の壁のような白(ブランク)と、末期患者の肌のような蒼(ペイル)とが、少しでも力を込めれば折れてしまいそうな、か細いステムに支えられ、薄氷(うすらい)のようなボウルで切りとられた小世界の中で、病的に混ざり合い、ドロリと波打つ。
始まりを象徴するかのような白(イノセンス)と死の気配が纏わりつく蒼(ペイル)。
それらが形創る混沌(せかい)の上で、大小さまざまな淀みきった泡(バブル)の群れが、パチリ、パチリと弾けるたびに、地下墳墓(カタコンベ)と生命誕生(バース)の香りが鬩ぎ合うマーブルが、男の鼻腔を蹂躙した。
男は、鼻をひくつかせ、眉根をひそめる。
しかし、その行動は不快から来るものではなかった。嫌悪から来るものでもなかった。
そのマーブルが、生けとし生けるすべてのものが、根源的嫌悪を抱き得るに違いない醜悪さを孕んでいるにもかかわらず、である。
その証拠に、男の口角は吊り上がり、喩えようもない歪みとともにその顔面に張りついている。
これ以上無いと思えるほどの、悪魔的な笑みだった。
生と死が混在し、互いに肯定と否定を繰り返す、究極の矛盾に満ち満ちたそのマーブルが鼻腔を這い、眼底を舐めるたび、男は歪んだ欲望と病的な興奮とともに、価値観(せかい)がひっくり返った、男にとって終末(カタストロフ)とも創造(クリエーション)とも言えるあの一瞬を思い出すのだ。
その日、男は豪華客船に乗っていた。目的は船上で開かれる競売(オークション)だった。
ただの競売(オークション)ではない。
社会から疎まれ、爪弾きにされる奇人、変人たちがこぞって集う奇奇怪怪な競売(オークション)である。
当然のように非合法であり、競りに出されるのは、奇人(バイヤー)が全く平凡に思えるほどの品々ばかり。
口にするのも憚られる邪悪なカルトにまつわる小像(スタチュー)、世間から完全に隠蔽されたはずの存在するべきでない文書(ノート)、そこにあるだけで人を破滅へと導くと思われるような妖しげな書物(グリモア)……
何不自由なく育ったがゆえに、己の好奇心のみに従って生き、ともすれば好奇心の奴隷のように生きていると思われた男にとっては、ここ以上にその病み切った精神を高ぶらせる場所はほかになかった。
ここは男にとって、まさしく理想郷(ユートピア)にほかならなかった。
そして、この日、男は見たのだ、理想郷の終末(ディストピア)を。見たのだ、理想郷の創造(クリエーション)を。
男は聞いたのだ、世界が壊れる音(カタストロフ)を。聞いたのだ、真の理想郷の誕生(ユートピア)を。
その時、男は会場を出ていた。何も不思議なことではない。ただ単に一服しようと思っただけのことだった。しかし、男にとって、この一服は、まさに運命の一服だった。
会場に戻ろうと扉に手をかけたとき、賢しい男の耳は容易く異常を嗅ぎつけた。
会場内が妙に騒がしかった。ただの騒がしさではない。不安と恐怖がありありと感じ取れる騒がしさだ。それも選りすぐりの奇人たちの集う会場から、である。
男はほんの少しだけ、絶対に中のものに見つからないように、少しだけ扉を押し開けた。
最初に目に入ったのは霧だった。会場の鋭角という鋭角から遍く吹き出す霧。蒼(ペイル)と白(ブランク)、生と死を同時に孕んだ矛盾を体現したかのような濃霧。
そうして、男は見た、いや感じた。五感すべてで。
その濃霧が凝縮し、固まり、顕現した、蒼と白の膿を滴らせる、四足の異形の神獣(かみ)を。悪魔(かみ)を。
いかなる重火器をもってしても、いかに不可思議な力をもってしても、その不死の絶対者(かみ)に蹂躙されるしかない、脆弱な、人間(せかい)の、理想郷(せかい)の姿を。
そしてこの時、男の生涯で最も激しく、最も歪み、最も狂った欲望が、その頭をもたげた。
『あの神(ちから)を自らのものにしたい』
この大それた欲望こそが、男にとっての真の理想郷(ユートピア)となったのだった。
そして、今、男の持つワイングラスには混沌(カオス)を思わせる蒼と白(マーブル)がなみなみと在った。
男は一息に小世界(グラス)を傾ける。
そして、今、男の持つ肉と皮の容れもの(ワイングラス)には神(カオス)を思わせる創造(マーブル)がなみなみと在った。
(了)
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